王鐸展
開催にあたり
毎年謙慎書道会が展観しております中国書画名品展ですが、本年は「王鐸展」を開催する運びとなりました。
王鐸は明末、清初の書家ですが、詩文、絵画も巧みで文集「擬山園帖」を著しました。明、清両朝に仕え礼部尚書となり、楷書は顔真卿、行書は王羲之、王献之の書風を学びました。魏晋を宗とし、名は当代に重んぜられ董文敏(基昌)と並び称せられ、さらに発展しました。ここでは行草について述べてみます。
王鐸は連綿体の書風を特色とし、自由奔放で気力に富んでいますが何よりもまず線質が素晴しいです。どの作品も強靭な線と、奔放な結体で風のおもむくままに運筆しており、それが少しも気にならない。行間をゆったりとっているので誇張と抑制がうまくハーモニーを作りあげているのでしょうね。
一般的には、やたらに筆を走らせると、とかくうるさい印象を与えるものですが、王鐸の場合はリズムにのった躍動感が見る者の心を高揚させます。
唐の時代に行草の書き手で懐素がおりました。彼の「自叙帖」は狂草と言われるほど自在に筆を走らせていますが、行間が狭く、小字も使っており野放圖という印象です。その点王鐸は奔放でありながら引きしまっているので知的な感じがします。王鐸の長巻と言えば時代は違いますが懐素の「自叙帖」を思い浮べますのでちょっと認めました。
昨今の書道展の会場を訪れますと圧倒的に長条幅の作品が多く、中でも行草は人気があって多くの人が魅せられている事がわかります。それらの人々にとって王鐸を眼前にすることは又とないよい勉強の機会だと思います。しかしながら王鐸は古典として法帖をきわめて尊重し、それが書作の根底となっていたことを考えますとどのような分野の書を習っている人にとっても王鐸からは極めて貴重な知識を得ることできるでしょう。目前に鑑賞出来る機会にぜひご清鑑いただければ幸いでございます。
今回の展示作品は、軸装、三十点、冊、七点、扇面(額)、二点、巻子、二点となっています。
最後になりましたが本展の開催に当り、ご理解、ご協力賜りました皆々様に心より御礼申し上げます。
謙慎書道会理事長 樽本 樹邨